過敏性腸症候群IBS

過敏性腸症候群(IBS)とは

日常生活に支障をきたす程度の腹痛、便秘と下痢、膨満感などの症状が慢性的に続きますが、炎症や潰瘍、がんなどの器質的な病変がない状態です。体質的なものとあきらめていたり、病気ではないと思って病院に受診されていない方が多いのですが、機能的な問題を解消することで症状を緩和させる治療が可能です。特に朝の通学・通勤中に突然強い便意や激しい下痢を起こしたり、便秘と下痢を繰り返しコントロールができなかったり、慢性的で頑固な便秘が続くなど、排便によって困っている方はIBSの可能性が高いです。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大きく低下させ、仕事や学業、生活に大きな支障を及ぼすことがあるため、治療が薦められます。

過敏性腸症候群の症状

主な症状は、腹痛や腹部不快感、便通異常、腹部膨満感です。主に下痢型・便秘型、便秘と下痢を繰り返す交代型に分けられ、その他として腹部膨満感などを起こすタイプがあります。

腹痛はどのタイプにも起こり、突然差し込むような強い腹痛と、鈍痛が続くケースに分けられます。腹痛に便意が伴い、排便によって一時的に腹痛が解消されることが多くなっています。こうした症状は食事や緊張などの影響を受けて生じることがあり、睡眠中には症状を起こすことがないのが大きな特徴です。なお、腹部膨満感を起こすタイプの場合には、お腹が鳴る、無意識におならが漏れるといった症状を起こします。 また、消化器以外の症状として、頭痛、疲労感、集中力低下、不安感、抑うつなどを起こすこともあります。

下痢型の症状

いきなり強い腹痛を起こし、その後すぐに激しい下痢になります。症状が突然現れ、すぐにはトイレに行けない状況に強い不安を感じ、通勤や通学に支障を及ぼすこともありますので、疑わしい症状がある場合には早めに消化器内科を受診してください。

便秘型の症状

強い腹痛を伴う頑固な便秘が主な症状です。強くいきんでも小さくて硬く丸い便が少量しか出ないというのが典型的な症状です。主に腸管の痙攣によって便が停滞することで症状を起こします。

交代型の症状

便秘と下痢を交互に繰り返します。腹痛を伴います。

過敏性腸症候群の原因

過敏性腸症候群では、蠕動運動などの異常や消化管の知覚過敏など、機能的な問題によって起こっていると考えられています。消化管の機能は自律神経がコントロールしているため、緊張などのストレスの影響を受けやすく、それによって症状を起こすことがあると考えられています。
また過敏性腸症候群の発症前に感染性腸炎に罹患したケースが報告されており、免疫異常の関与も示唆されています。

過敏性腸症候群の診断

過敏性腸症候群の主な症状は多くの消化器疾患と共通しているため、炎症や潰瘍などの器質的異常の有無をまず確かめます。血液検査を行って炎症の有無を確かめ、大腸カメラ検査で病変の有無を確認します。こうした検査で器質的病変が確認できない場合に、はじめて過敏性腸症候群の診断ができます。
患者さんから症状の内容、症状の変化、症状が起こるきっかけ、特にお悩みの点、既往症や病歴、普段服用されているお薬などについて、丁寧にうかがっていきます。
過敏性腸症候群の世界的な診断基準として使われているRome基準にそって診断しています。

IBSのRomeⅣ診断基準
  • 腹痛や腹部不快感が排便によって軽快する
  • 症状の有無によって排便頻度に変化がある
  • 症状の有無によって便の状態に変化がある

6ヶ月以上前から症状があり、腹痛あるいは腹部不快感が、最近3ヶ月の中の1ヶ月につき、少なくとも3日以上を占め、上記2項目以上満たしていること
診断にあたって、尿検査、便検査、血液検査、大腸内視鏡検査を行って、病変など器質的な問題がないことを確認することを推奨されています。

症状がはじまった時期が半年以内など、基準に満たない場合も、過敏性腸症候群が強く疑われる場合には総合的に判断して診断し、適切な治療につなげています。基準に当てはまらないからとあきらめず、お気軽にご相談ください。

治療

過敏性腸症候群は、命にかかわる疾患ではありませんが、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大きく下げてしまう疾患です。完治に導く治療法がなく、症状を改善できるまで時間がかかりますので、気長に治療を続けることが重要です。当院では患者さんのお話をじっくりうかがい、お悩みの内容にきめ細かく合わせた治療をご提案しています。
過敏性腸症候群の治療は主に症状緩和のための薬物療法と、食事や生活習慣の改善を行います。

生活習慣の改善

症状を悪化させる生活習慣を見直し、できるだけストレスなくできる範囲から改善していきます。規則正しい生活、睡眠や休息をしっかりとることは基本です。神経質になってしまうと逆にストレスとなりますので、無理はしないようにしてください。

食事療法

脂質、カフェイン、香辛料を多く含む食品、ミルク、乳製品を控えることで症状が軽快することがあります。また、欧米ではFODMAP食(発酵性食品、オリゴ糖、二糖類、単糖類、糖アルコール)を控えることで、IBSの症状を軽減すると言われています。当院では低FODMAP食を含め食事指導を行っています。

運動療法

習慣的に軽い運動を続けることで、血行や代謝が改善すると、腸の働きも整いやすくなります。激しい運動は逆効果になることがありますので、やや早足のウォーキング、水泳などが適しています。運動の前後には必ずストレッチ丁寧に行ってください。

薬物療法

お悩みの症状、生活に支障を及ぼす症状がある場合には、薬物療法で症状を緩和させます。下痢や便秘といった便通異常には、さまざまな効果を持った多数の薬があります。効果の現れ方が異なるものもあり、ライフスタイルにきめ細かく合わせた処方が可能です。また、消化管の症状には短期間の抗不安薬、抗うつ薬などが高い効果をもたらすこともあります。最近は新しい作用機序を持った薬も次々に登場しているため、市販薬で十分な効果を得られない場合も有効な治療が可能になるケースが増えています。
当院では漢方薬の併用、乳酸菌や酪酸菌製剤などもご用意して、患者さんの幅広いご要望にお応えできるようにしています。