炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)IBD

炎症性腸疾患について

代表的な炎症性腸疾患(IBD)には、潰瘍性大腸炎とクローン病があります。どちらも患者数が増加傾向にある疾患で、腹痛、下痢、血便などの主な症状や、症状のある活動期と症状のない寛解期を繰り返すなど共通した部分が多くなっています。腸管にびらんや潰瘍ができますが潰瘍性大腸炎とクローン病は異なる病気であり、違う治療法が必要になることがあります。どちらも進行性の疾患であり、専門医でなければ正確な診断が難しいため、疑わしい症状がある場合にはできるだけ早く専門の消化器内科を受診してください。
潰瘍性大腸炎やクローン病と似た症状を起こす疾患には、感染性の腸疾患があります。感染症の場合、周囲に感染を広げてしまわないためにも早期の受診が重要になります。

炎症性腸疾患の検査・診断

問診で症状の内容、症状がはじまった時期や経過、お悩みの点などをうかがいます。感染症や薬剤性の胃腸炎などの可能性も考慮し、服薬歴、家族歴、海外渡航歴なども確認します。感染症の疑いがある場合は、細菌学的検査や寄生虫学的検査を行います。
感染症の可能性がない場合は、血液検査や大腸カメラ検査などを行います。特に大腸カメラ検査は、潰瘍性大腸炎やクローン病の特有な病変を観察でき、組織を採取して病理検査を行うことができるため、確定診断に不可欠です。また、炎症や潰瘍の状態、範囲を正確に把握できるため、適切な治療に役立ちます。クローン病は胃・十二指腸、小腸にも病変を生じることがあるため、胃カメラや小腸の検査(小腸造影検査、小腸カプセル内視鏡検査、ダブルバルーン小腸内視鏡検査)も必要です。小腸の検査は専門性が高いため当院では行っていませんが、信頼できる専門病院にご紹介するのでご安心ください。

難病指定について

潰瘍性大腸炎とクローン病はどちらも原因がまだはっきりとはわかっていない疾患です。根治に導く治療法がないことから、厚生労働省によって難病指定されています。根治は望めませんが、炎症を改善する効果的な治療法がわかってきており、適切な治療を続けることで発症前とあまり変わらない生活を送ることも期待できる病気です。
潰瘍性大腸炎とクローン病は難病指定されていますので、難病医療費助成制度を利用した治療により医療費の自己負担を軽減することが可能です。国が定めた診断基準をもとに難病指定医による診断を受けることで、難病医療費助成制度を利用することができます。軽症の場合は難病医療費助成制度の対象となりませんが、軽症でも長期の治療が必要な場合は、軽症高額該当として医療費助成が受けられることがあります。当院では難病指定医療機に指定されており、難病指定医による診療が可能であり医療助成が受けられます。

潰瘍性大腸炎(UC)とは

幅広い年代で発症しますが、発症のピークは20代で若い世代の発症が多い傾向があります。遺伝的な素因が発症に関与していると考えられていて、環境による影響によって免疫異常を起こし、大腸を中心に粘膜の炎症や潰瘍が生じると考えられています。

原因

発症原因やメカニズムはまだはっきりとはわかっていませんが、現在では発症に免疫が大きく関与していると考えられています。遺伝や食習慣、服用している薬などが複合的に影響するとされています。

症状

主な症状は、腹痛、下痢、血便で、粘液が混じった粘血便も生じやすい症状です。発熱や頻脈などを起こすこともあり、感染症との鑑別が重要です。症状のある活動期と症状が落ち着く寛解期を繰り返すため、治ったと思ってぶり返してしまい、受診されることがよくあります。クローン病とも共通しているため、適切な治療をできるだけ早く受けるために、消化器内科を受診して正確な診を受けてください。

診断

正確な診断のためには、大腸カメラ検査が不可欠です。当院では経験豊富な専門医が高度な最新内視鏡システムを使って負担が少ない精緻な検査を行っています。 症状の内容、血液検査、大腸カメラ検査の結果、大腸カメラ検査で採取した組織の病理検査などを総合的に判断して診断しています。

治療

根治に導く治療法はありませんが、症状を緩和させて寛解期に導き(寛解導入療法)、症状のない状態をできるだけ長く続けられるようにしっかりコントロール(寛解維持療法)を続けます。寛解期になって治ったと治療を中断してしまうと症状を悪化させて再び活動期に入ってしまいます。進行性の病気ですから、寛解期にもしっかり治療を続けて悪化させないようにすることが大切です。

5-ASA(5-アミノサリチル酸)製剤(サラゾピリン、ペンタサ、アサコール、リアルダ)

大腸の炎症を抑える効果があり、基本の治療薬です。軽症から軽症に近い中等症の寛解導入療法で使用します。寛解維持療法でもよく使われています。まれに服用開始1~2週間以内に症状の悪化が見られる場合があり、「不耐」と呼ばれる副作用の可能性があります。ただし効果が不十分で悪化している場合もあり判断が難しいこともあるため、すぐに相談してください。薬の種類には飲み薬の他に、おしりから使う坐剤、注腸剤の局所製剤もあります。

ステロイド製剤

多くの病気で使われていますが、潰瘍性大腸炎でも活動期の炎症を抑えるのに有用な薬です。中等症から重症の寛解導入療法で使用しますが、寛解維持療法では使用しません。さまざまな副作用がありますが、注意しながら使うことですぐに対処できることが多いです。飲み薬や点滴、坐剤・注腸剤、注腸フォーム剤などの局所製剤もあります。

免疫調節薬(イムラン、ロイケリン)

ステロイドの減量や中止によって再燃するステロイド依存例や、ステロイドで改善がないステロイド抵抗例で使用します。寛解維持療法としても使用します。開始してから2~3か月で効果が現れます。レミケードと併用することがあります。NUDT15遺伝子のパターンによって、早期に白血球減少や脱毛などの重篤な副作用を発症するリスクが高くなることがわかっています。当院では事前に副作用が生じやすい遺伝子を持っているか検査したうえで、安心して免疫調節薬をお使いいただけます。

免疫抑制剤(タクロリムス)

重症の寛解導入療法で使用します。即効性があり、ステロイド抵抗例に使用します。血中濃度を測定しながら、適切な用量を服用します。腎機能障害の副作用があり、3か月間を目安に使用します。

生物学的製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー、エンタイビオ、ステラーラ)

炎症の原因となる免疫システムの異常に作用する分子をターゲットにした薬です。抗体製剤とも呼ばれています。点滴や皮下注射による注射剤で、自分で皮下注射する自己注射もあります。投与のタイミングは薬によって変わり、2週間、1か月、2か月、3か月毎に定期的に投与する必要があります。高い寛解導入効果と寛解維持効果がありますが、次第に効果が減弱する2次無効と呼ばれることが生じることもあります。今後も多くの新薬が期待されており、治験で投与することが可能な場合もあります。治験をご希望される方は専門施設への紹介を行っていますので、お気軽にご相談ください。

JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬(ゼルヤンツ)

分子標的薬のひとつで飲み薬になります。炎症を引き起こすサイトカインという物質が信号を伝えて炎症を生じますが、その信号を止めることで炎症を抑える働きします。毎日継続する必要があるので、薬を飲み忘れる方にはふさわしくないかもしれません。

血球成分除去療法(アダカラム、セルソーバ)

活性化した血球成分を除去する治療法です。血管内に留置針を刺入して、血液を一旦体の外に取り出し、専用のカラムに通して血球成分を除去します。その後は血液を体内にもどします。ステロイドを中止・減量すると再燃する場合とステロイドで効果がない場合に使用します。副作用が少ないメリットがあります。当院では行っていないため、専門施設にご紹介します。お気軽にご相談ください。

栄養療法

蛋白質源がアミノ酸のみから作られた成分栄養剤が多く使われます。アミノ酸は独特の苦みがあるので、いろいろなフレーバーを足すと飲みやすくなります。食事と成分栄養剤を半分ずつで栄養をとるハーフEDや、すべて成分栄養剤にするフルEDなど、患者さんによってバランスは様々です。フルEDは量が多くなるので、夜間就寝中に経鼻的チューブを毎回挿入し自動のポンプを使って投与する方法もあります。

外科的手術治療

治療の経過によっては大腸を切除する手術が必要になることもあり、次の場合に手術を検討します。

  • 薬物治療や血球成分除去療法で効果が得られない場合
  • 大腸に穴が開いたり(穿孔)、穿孔のリスクになる巨大な結腸になったりした場合
  • 大量の出血が止まらない場合
  • 大腸がんになった場合

標準的な手術は大腸全摘です。一時的に人工肛門になりますが、その後もう一度手術をして、人工肛門を取って小腸と肛門をつなぎます。小腸は出口で袋状に形を整えて肛門または少し肛門管を残したところでつなぎます。
当院では人口肛門の方のためにオストメイト用トイレを設置しています。受診がない場合でも、お近くを通っているときにトイレに行きたくなったらご自由にお使いください。

潰瘍性大腸炎は大腸がんのリスクになります。8年以上経過するとリスクが次第に増えてくるため1年毎の大腸カメラが必要になります。

クローン病とは

クローン病とは消化管に炎症や潰瘍ができる慢性的な炎症性疾患で、症状の内容や活動期と寛解期を繰り返すなど、潰瘍性大腸炎と似ています。ただし、潰瘍性大腸炎は主に大腸粘膜に炎症が起きますが、クローン病は口から肛門までの消化管全域に炎症を起こす可能性があり、主に小腸と大腸に病変が生じます。潰瘍性大腸炎と違って飛び飛びに病変ができる特徴があり、全く異なる病気です。クローン病は栄養療法を必要とする場合が多いなど、治療法にも違いがありますので、できるだけ早く正確な診断を受けて、適切な治療につなげることが重要です。
潰瘍性大腸炎も若い世代の発症が多い傾向がありますが、クローン病は10~20代の発症が多く、年齢が上がると共に発症率が下がります。
クローン病も難病指定されていますが、炎症を効果的にコントロールする治療法によって症状のない寛解期をできるだけ長く続け、発症前に近い生活を送ることが期待できます。寛解期にも治療を続けないと再び活動期に入り、悪化した症状が現れてしまうため、地道に治療を続けることが大切です。

原因

はっきりとした発症の原因はまだわかっていませんが、背景に遺伝子異常があることはわかっています。そこに食事・異物・病原体などが関与し、異常な免疫反応を起こしていると考えられています。

症状

腹痛、下痢・血便、発熱が主な症状です。炎症が広範囲に及ぶと十分な栄養摂取ができなくなり、体重減少などを起こすこともあります。また、口内炎や痔ろうなどで受診して発見されることもあります。口から肛門までの広い範囲に病変が現れる可能性があり、潰瘍性大腸炎よりも深い部分まで炎症が及ぶことがあります。こうしたことから、長期間炎症を繰り返すことによって、狭窄(狭くなること)、穿孔(腸管に穴が開くこと)、癒着(腸管や腹壁とくっついて変形すること)、瘻孔(腸管と腸管がつながって新しく通り道ができること)など、腸管が変形する特徴があります。穿孔が原因でお腹の中に膿がたまることもあります。また、炎症の長期化によって大腸がんや肛門がんの発症リスクも上昇します。定期的に小腸や大腸の検査を受けて状態を確認することが不可欠です。

診断

クローン病が疑われる場合には、血液検査や大腸カメラ検査を行いますが、クローン病の確定診断には、特有の病変を観察できる大腸カメラ検査が有効です。大腸カメラ検査で炎症の範囲などを把握することで適切な治療につなげることが可能になります。また、小腸にも病変ができるため、小腸の検査として小腸造影検査、小腸カプセル内視鏡検査、ダブルバルーン小腸内視鏡検査を検討します。小腸の検査は専門性が高いため当院では行っていませんが、信頼できる専門病院にご紹介するのでご安心ください。

治療

病変の活動性を抑えて症状を緩和させ寛解期に導き、症状がなくなったら寛解期をできるだけ長く続ける治療が基本です。こうした治療内容は潰瘍性大腸炎と共通しています。クローン病では特定の食品が症状を悪化させることがあり、ある程度の食事制限が必要になります。ただし食事制限は必要最小限を心がけ、栄養不足が生じないようにすることが重要です。また、消化管の広範囲に炎症を起こすケースもあり、悪化させないために腸への刺激を抑えた栄養療法が必要になることもあります。
最近になって白血球吸着除去療法や抗TNFa製剤などの治療が登場し、高い効果を得られるケースも出てきていますので、消化器内科で専門性の高い治療を受けるようお勧めします。進行させてしまうと腸の切除が必要になることもあります。進行させないために、症状のない寛解期にもしっかり治療を続けることが不可欠です。

5-ASA(5-アミノサリチル酸)製剤(ペンタサ、サラゾピリン)

腸管の炎症を抑える効果があり、基本の治療薬です。軽症から軽症に近い中等症の活動期の治療で使用します。寛解維持療法でもよく使われています。まれに服用開始1~2週間以内に症状の悪化が見られる場合があり、「不耐」と呼ばれる副作用の可能性があります。ただし効果が不十分で悪化している場合もあり判断が難しいこともあるため、すぐに相談してください。

ステロイド製剤

多くの病気で使われていますが、クローン病でも活動期の炎症を抑えるのに有用な薬です。軽症から重症で使用しますが、寛解維持療法では使用しません。さまざまな副作用がありますが、注意しながら使うことですぐに対処できることが多いです。飲み薬や点滴で使います。

免疫調節薬(イムラン、ロイケリン)

ステロイドの減量や中止によって再燃するステロイド依存例や、ステロイドで改善がないステロイド抵抗例で使用します。寛解維持療法としても使用します。開始してから2~3か月で効果が現れます。レミケードと併用することがあります。NUDT15遺伝子のパターンによって、早期に白血球減少や脱毛などの重篤な副作用を発症するリスクが高くなることがわかっています。当院では事前に副作用が生じやすい遺伝子を持っているか検査したうえで、安心して免疫調節薬をお使いいただけます。

生物学的製剤(レミケード、ヒュミラ、エンタイビオ、ステラーラ)

炎症の原因となる免疫システムの異常に作用する分子をターゲットにした薬です。抗体製剤とも呼ばれています。点滴や皮下注射による注射剤で、自分で皮下注射する自己注射もあります。投与のタイミングは薬によって変わり、2週間、1か月、2か月、3か月毎に定期的に投与する必要があります。高い寛解導入効果と寛解維持効果がありますが、次第に効果が減弱する2次無効と呼ばれることが生じることもあります。今後も多くの新薬が期待されており、治験で投与することが可能な場合もあります。治験をご希望される方は専門施設への紹介を行っていますので、お気軽にご相談ください。

血球成分除去療法(アダカラム)

活性化した血球成分を除去する治療法です。血管内に留置針を刺入して、血液を一旦体の外に取り出し、専用のカラムに通して血球成分を除去します。その後は血液を体内にもどします。ステロイドを中止・減量すると再燃する場合とステロイドで効果がない場合に使用します。副作用が少ないメリットがあります。当院では行っていないため、専門施設にご紹介します。お気軽にご相談ください。

外科的手術治療

次のような時に手術治療をします。

すぐに手術が必要な場合
  • 穿孔(腸管に穴が開くこと)
  • 腸閉塞
  • 大量出血
  • 膿瘍(うみがおなかの中に溜まること)
  • がんの合併病状やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を考えて手術を検討する場合
  • 強い腸管の狭窄
  • ろう孔(腸管どうしや腸管と膀胱、腸管と腟などが交通する内ろうや腸管が皮膚と交通する外ろう)
  • 内科治療でなかなか良くならない病変
  • なかなか良くならない肛門の病変(痔ろう、直腸膣ろう、肛門狭窄など)や直腸肛門の病変によって排便に支障をきたす場合

手術の方法

出来るだけ良い状態の腸管を残すような手術をします。とくに手術を繰り返して小腸が短くなる短腸症候群にならないように、計画的に手術の方法を決めてきます。短腸症候群は消化吸収機能のある腸管が短くなることで、栄養状態の悪化、下痢、脱水などの症状がみられ、著しいQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下をきたすことがあります。

  1. 腸管を切除して吻合する方法
  2. 腸管を切除しないで、切込みをいれて形を整える狭窄形成術
  3. 膿瘍にはドレーン(うみを体のそとに出すための細い軟らかいチューブ)を一時的に留置する方法

患者さんにとって一番良い方法を考えて手術の方針を決めていきます。
一時的に人工肛門になる方もいます。
当院では人口肛門の方のためにオストメイト用トイレを設置しています。受診がない場合でも、お近くを通っているときにトイレに行きたくなったらご自由にお使いください。

クローン病はがんのリスクになるため、定期的な内視鏡や画像検査が必要になります。